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米国の国家戦略

北朝鮮の10月9日の核実験以来、「日本核武装論」がちらほら聞かれますが、私は日本の核保有については自民党・参議院議員の枡添要一氏の「不要」説を支持します。ただし、論議もするなというのは現実的ではないと思っています。「専守防衛」だけでは通常戦や通常兵器しか視野に入ってません。大量破壊兵器搭載弾道ミサイルを視野に入れた「敵地先制攻撃論」や「日本核武装論」を議論することは自然なことかと思います。
また、議論・言論の自由にタブーがあってはならないし、政治家や官僚に陰でコソコソやられるより余程良いとは思いませんか。国民の轟々たる批難があるから表に出すのはやめようというようなことがあってはならないと思います。ヒステリックになるより、注視した方が賢明です。

こうしたなか、北朝鮮核実験の余波として、いま国際的に語られるようになったのは「日本の核武装論」です。なかでも、ブッシュ政権で大統領補佐官を務めたデービッド・フラム氏がニューヨーク・タイムズ10月10日付に発表した寄稿論文には、驚くべき内容が発表されています。次のような日本核武装奨励論なのです!
 
「日本の核武装は中国と北朝鮮への懲罰となるだけでなく、イランに核武装を思いとどまらせるという米国の目標にも合致する。日本の核武装の奨励は、他の無法国家がその地域の核の均衡を崩そうとする場合、米国とその友好諸国がその試みを積極果敢に正そうとすることをイランに知らしめることになる。米国はイスラエルの核攻撃能力を高めることもできるのだ」

中国と朝鮮半島だけでなく、中東まで引き合いに出して論じてます。このような過激な意見は、数年前より繰り返し共和党系保守派の一部から主張されてきましたが、ニューヨークタイムス紙のような大手メディアにフラム氏のような大物が主張を展開するのは初めてではないでしょうか。米国の国家戦略の中にはあり得るものです。日本の核武装を恐れるはずの中国が、北朝鮮の核兵器開発問題に真剣に取り組まないのであれば、米国は日本の核武装を是認し、支援するということだと思います。
産経新聞論説委員で国際問題評論家の古森義久氏の論説(日経BP)を以下抜粋して引用します。

「日本の核武装」という警告は米国から発せられ、中国に向かってぶつけられることが多かった。日本が核兵器を持つという事態は中国にとって最も忌避する可能性だから、その原因となる北朝鮮の核武装を中国が阻止すべきだ、という理屈である。肝心の北朝鮮に対しても、この「日本の核武装カード」は使われることがあった。北朝鮮が核を持てば、最大の敵の日本も核を持つことになるから、核武装をやめておけ、という説得だった。だが北朝鮮に対するこのカードはまったく効果がないことが判明したわけだ。

米国はNPT(核拡散防止条約)の最大の推進国であり、日本に対しては日米安保条約に基づく二国間同盟で「核の抑止力」を提供している。つまり日本の防衛のための「核のカサ」を保証しているのだ。その代わり日本は独自の核は持たないということが相互の了解である。
今回の北朝鮮の核実験の直後にドッと出た「日本も核武装へ」という議論も、ほぼすべてその範ちゅうのようである。
しかしただ一つ、例外があった。

 ブッシュ政権で大統領補佐官を務めたデービッド・フラム氏がニューヨーク・タイムズ10月10日付に発表した寄稿論文での主張である。フラム氏はこの論文で北朝鮮とその背後にいる中国を厳しく非難していた。北朝鮮が米国をはじめ国際社会をだまして、核実験に踏み切り、しかも中国はその冒険を阻止できる立場にあるのに止めなかった、と糾弾している。だから米国は北朝鮮と中国にそんな危険な挑発行動への代償を払わせるために一連の断固とした措置をとるべきだ、と主張している。
フラム氏はそのなかで日本について次のように述べていた。


 「米国は日本に対しNPTを脱退し、独自の核抑止力を築くことを奨励せよ。第二次世界大戦はもうずっと昔に終わったのだ。現在の民主主義の日本が、台頭する中国に対してなお罪の負担を抱えているとするバカげた、見せかけはもうやめるときだ。核武装した日本は中国と北朝鮮が最も恐れる存在である」。

 「日本の核武装は中国と北朝鮮への懲罰となるだけでなく、イランに核武装を思いとどまらせるという米国の目標にも合致する。日本の核武装の奨励は、他の無法国家がその地域の核の均衡を崩そうとする場合、米国とその友好諸国がその試みを積極果敢に正そうとすることをイランに知らしめることになる。米国はイスラエルの核攻撃能力を高めることもできるのだ」。


 大胆だが明快な主張である。今の米国ではもちろん超少数派の意見でもある。ブッシュ政権にも日本に核武装を促すという気配はツユほどもない。だがそれでもこうした政策提言が初めて堂々と出てきたことは注視せざるをえない。

この論文の筆者のフラム氏は2001年から2002年まで第一期ブッシュ政権で大統領補佐官として働いた。主要任務は大統領の経済関連の演説草稿を書くことだった。同氏は本来はジャーナリストだが、ハーバード法科大学院卒の弁護士でもあり、共和党系保守の活動家として、国家安全保障の領域でも研究や著作を活発に重ねてきた。現在はワシントンの大手研究機関「アメリカン・エンタープライズ・インスティテュート」(AEI)の研究員である。要するに今、政権を握る共和党保守派の人物なのである。
フラム氏はその他に以下のような主張をも述べていた。

「米国にとって最も危険な敵の核兵器取得が、米国にとって最も頼りになる同盟国の核兵器取得という結果を招くことを北朝鮮や中国に知らしめるべきだ」。

 「今後の米国の戦略目標は、第一は北朝鮮の核の脅威を受ける日本と韓国という同盟国の安全を強化すること、第二は北朝鮮に核武装への暴走の代償を十二分に払わせ、イランへの警告とすること、第三は中国に懲罰を加えること、である」。

 「日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポールをNATO(北大西洋条約機構)に招き入れる。NATOはいま域外諸国の加盟を求めており、そうした加盟は中国への大きな抑止となる」。

 「日本や台湾のミサイル防衛を大強化するとともに、北朝鮮への人道援助を全面停止する。韓国にも北への援助の停止を求める」。

以上、強硬な対応である。日本に核武装を奨励するという部分は現在のブッシュ政権のグローバルな核拡散防止の政策とは明らかに衝突する。だがその一方、一連の政策提言ではブッシュ政権の本音をちらほらと反映していることも否めない。
 しかし初めて米国の識者、しかも現政権にきわめて近い人物から大手新聞のニューヨーク・タイムズ
という主要舞台で「日本に核武装の奨励を!」という主張が出たこと自体は、米国の新たな戦略思考のうねりをも感じさせる。

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コメント

最近、受験勉強のために「世界史」をほかしているっていう記事に怒りを覚えます。世界史は必須科目にすべきですし、もっと、もっと教え方も工夫すべきです。高校世界史の教科書、ご覧になったことがありますか???あれでは、興味を失わせるばかり・・・そして、この・・・ていたらく・・・無念です。

投稿: 山口ももり | 2006年10月27日 (金) 18時57分

ももりさん、コメントありがとうございます。
各地の高校で必修科目である世界史の授業が行われていなかったことが発覚しましたね。これは文部省が高校の課した成果主義が悪いと聞きました。何でも数字で成果を出させるという安易なやり方がこんなていたらくを生みました。いじめ問題も「いじめはゼロ」という数字! 教育現場までお役所仕事じゃ生徒が主役の学校ではなくなってしまいますね。教師によっては「私は公務員。サラリーマンだから・・・」と言って憚らないそうです。いじめがあっても何も出来ないわけです。普通の会社の営業マンのように数字を上げることだけに邁進するのかな?

歴史が苦手な学生は、日本だけじゃなくて米国も同じようです。5~6年前に新聞に出ていましたが、ハーバードやスタンフォードなぢ55校の学生に高校レベルの歴史の基礎問題を試したところ、落第または及第ぎりぎりの成績だったことが分かったそうです。結果に驚いた連邦議員の有志は
「小学校から大学までもっと歴史教育に力を入れないと国の将来が危ぶまれる」
と緊急声明を発表したことがあります。最も間違いの多かったのは「人民の人民による人民のための政治」という名文句の出典を尋ねる問題で、リンカーン大統領の「ゲティズバーグ演説」と正しく答えたのはわずか22%で、独立宣言や憲法の一節と思い込んでいる学生が多かったそうです。
韓国でも小学生は、朝鮮戦争の相手国を日本だと思っている子が多いと聞きます。
作家の海音寺潮五郎氏は、国語も数学もどの教科も、昔はみんな歴史の中にあったと書いてます。歴史を学ぶことは大事ですね。温故知新とも言います。

投稿: ミーシャ | 2006年10月27日 (金) 22時32分

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